狩撫麻礼さんと「少女・ネム」(7月20日 雨)

狩撫麻礼さんの追悼本が発売されます。狩撫さんがカリブ・マーレイ名義で原作を務めた『少女・ネム』について4ページほど、描かせていただきました。狩撫麻礼さんは言わずと知れた漫画原作の巨人であり、映像化したヒット作も含めた膨大な作品群があり、そこからすると『少女・ネム』というのは、未完で終わってしまった作品であり、しかも単行本が1巻しか出ておらず、知名度も決して高くはないかと思います。ですが、自分にとっては漫画家を志した頃に読んで、今でもバイブルとして「最も影響を受けた作品」のひとつに挙げる漫画です。たいへんおこがましい内容ではありますが、思いのたけをいろいろと描かせていただきました。ネムを知らない方が読んでもある程度は伝わるように描きましたが、特にあのころ『少女・ネム』を読んでいた読者の方にこそ、お読みいただければとても幸いです。よろしくお願いします。もうネムの連載が止まってから、20年以上経つんですね。


追悼本『漫画原作者・狩撫麻礼1979-2018《そうだ、起ち上がれ!! GET UP,STAND UP!!》』は、生前に狩撫さんと親交の深かった方、あるいは1度か2度しか会っていない方、そもそもお会いする機会もなかった方、そして絶交してしまった方…など、本当に様々な方々からの寄稿で出来ています。皆さんエピソードも思い入れのある作品もそれぞれたいへんに幅広く、それを狩撫さんの仕事歴という1本の時間軸に沿って構成し、大変読み応えのある、それでいて狩撫さんの軌跡がすんなりとわかりやすい1冊になっていると思います。一通り読み終えるには数時間で済みますが、そこからまた手元にある狩撫作品を読み直し、また追悼本を読み直し…となり、数日、あるいは数週間、いやもっと「持っていかれる」ことになりますので、そこはお覚悟ください。ともあれ大変に濃厚で、何度も読み返してしまう本です。掛け値なしに良い本になっていると思います。編集・デザイン他で携わられた皆様、お疲れさまでした。


この本の責任編集であり、本書の中にも度々登場する双葉社の平田氏と以前お話ししているときに狩撫さんの話題が出て、少女・ネムが大好きなことをお伝えしたことがありました。平田さんがそのことを覚えておられて、追悼本を作る際にお声がけいただき、今回の原稿を描かせていただく機会を頂いた次第です。4ページとはいえ、自分が漫画家を志したきっかけの1冊であり、それについてああいった原稿(4ページ目のことです)を描くのは本当に難しく、人生で一番辛い原稿でした。4ページ目の2コマ目のパーティー会場のシーン、あそこはペン入れに2回失敗して、下書きからやり直しました。やはり作画の木崎ひろすけ氏は天才だったのだと思い知りましたが、でも、描けて良かったです。60名以上の寄稿者の中でネムに触れているのは僅かに自分ひとりで、もちろん狩撫さんの仕事量とネムの知名度からすればそれは仕方のないことなんですが、この場に自分がいて、何としてでもネムのことを少しでも書き残せて、本当に良かったと思っています。それはネムだけでなく、たとえば園山二美さんや宮田紘次さんのことについても(ビームつながりというだけでかなり強引ですが)、ちょっとだけでも書き残しておきたかったのです。


去年の11月末になんとか原稿が完成し、平田さんに会ってお渡ししたのですが、原稿のチェックをしていた平田さんが、狩撫さんを目撃した時のイラストを見て「プッ」と吹き出し、「似てますね」と笑って下さいました。それがとても、嬉しかったです。