女衒屋グエン(9月20日 曇)

日向夏さんの小説『女衒屋グエン』が発売されました。装画担当として、表紙・ソデほか、本編挿絵を8枚描きました。全てフルカラーで印刷されてます。

最初は「表紙と、本編挿絵を3枚程度」というお話で、そのくらいならまあ…と思ったのですが、原稿を頂いて読んでみると、5章仕立てで、それぞれの章にメインとなる妓女がいるんですよね。なので最低5枚は描かないといけない。加えて日向さんと編集さんの双方から「クライマックスのシーンを是非」との要望があり、確かにこの小説に挿絵をつけるなら、このシーンを外してなんとするという場面があるので、そこを見開きで2枚。そうなるとエピローグにもう1枚欲しい。というわけで結局、本編挿絵は8枚描くことになりました。がんばりました。

ちなみに妓女は「ぎじょ」と読みます。お金をもらって男性の相手をするのがお仕事なのですが、いわゆる遊女や娼婦とはひとくくりに出来ない職業のようで、そこらへんは本編をお読みいただければと思います。この妓女たちが暮らし、客の男たちが訪れる建物を「妓館」と言い、物語の舞台は堀中と呼ばれる、妓館が立ち並ぶ運河沿いの街です。この街は科挙(中国の高官。もんのすごい倍率の高い試験で、合格するのめっちゃ大変なやつ)の試験会場に近いので、科挙の人々はもちろんのこと、その試験を受けに来る将来の高官候補の若人なんかで溢れるわけでして、そのへん、もう街の存在自体が面白い。そういう場所で暮らす妓女たちの物語です。

中国はなぜだか昔から興味が湧かなくて、ほぼ描いたことがありませんでした。作中に出てくる楽器、二胡と三弦の違いもわかりません。弦の本数が違うだけじゃないの? とはいえ、この機に描いてみるのも面白いかと思って、中国のAmazonで書籍を注文したり、図書館で参考になりそうな本を見繕ったり、神保町にある中国書籍専門店に足を運んだり、ネットで検索して中国の博物館のサイトやオークションサイト(当時の骨董品がいろいろ出品されてる)を覗いたりして、いろいろ調べました。まあ完全に泥縄なんで全然調べ切れなかったですけれども、面白かったし良い経験でした。二胡と三弦の違いがわかるようになりました。雑に言うと、二胡はバイオリンで三弦はギター。

あとは、作中で一琳というキャラが宝くじを買うシーンがあるんですが、そこはぜひ描きたかったので、当時の宝くじってどんなものなの?って、一日中ネットで調べてたりしました。向こうの宝くじって彩票って言うんですけど、もう全然見つからなくて頭をかかえました。まあたぶん現物があんまり残ってないのと、どうも宝くじ自体が下火だったっぽくて、もうちょっと時代が後になると山ほど現物が出てくるんですよね。鳩レースでビンゴやるみたいなクジ(白鳩票)が大流行したりしたようで、そういうのが向こうのオークションサイトで「うちの蔵から出てきました」とかってガンガン売られてるのが面白かったです。しょうがないので挿絵では、時代の違う資料をアレンジして描きました。

あと、COMIC ZINさんの方では店舗特典としてイラストカードが付きます。これは当初は表紙のイラストを使った既存のもので、という予定だったんですが、せっかくなので描き下ろしました。1ページを21コマに割って、登場キャラのいろんな表情を描いています。4案出した表紙ラフのうちの1つを再利用したもので、さすがにこれを表紙にするのは冒険すぎると判断されたのですが(その通りだと思います)、特典としては面白いだろうと思って再利用してみました。本編を描き終わった後に描いたので、無駄な力が抜けて、いい表情が描けたと思います。グエンは最初に本編を読みながら順繰りに大量のラフを描いて、その中から表紙や本編挿絵に使うカットを選別したのですが、選に漏れた中にも良いカット、描きたいカットがちょいちょいあったので、そのへんを特典で再利用できて良かったです。

と、まあ、つらつらと挿絵のことを書きましたが、もちろんこの本のメインは日向夏さんの描く物語の部分であり、挿絵は添え物です。なるべく文章の邪魔をしないよう、かつ、読みながら挿絵と照らし合わせると、本編がより引き立つよう努めました。紙の本で、めくったり、また戻って挿絵を見返したり、そういう読み方が楽しいように作ったつもりです。はるか昔の中国で、妓女たちが暮らす妓館が立ち並ぶ、運河沿いの堀中の夜の物語。みにくい下女と、人でなしの女買いの男のふたりが、彼らの世界の頂点たる皇帝の前に立ち、ほんの一瞬それを凌駕する物語です。どうぞよろしくお願いします。